それは…海に抱かれたように過ごした2日間、でした
「どんなに頑張ってもそこには届かない、ということはあると思います。ただ、自分が頑張ればいつかはそこへ行けると思って練習するのと、そうでないのとでは全く違うと思うので…」。アテネオリンピックで日本水泳女子史上初の自由形メダリストとなった柴田亜衣選手の言葉だ。
地元素材によるイタリアンとワインを存分に楽しみ、階下のバーに移動。プール脇の一人寝用ソファで薄暮の海を眺めて夢うつつ…となっていた瞬間、ふと、最近テレビで観たこの台詞が頭に浮かんだ。
「いつの日か、この場所に」。この宿の代表でホテル竜宮の社長でもある松本勝彦氏は、自らがこの土地を取得するはるか以前から、近しい人にそう語っていたという。「彼がその話を始めたら、それは酔いが回っている証だった(笑)」とは、あるご友人の弁。
小高い山のてっぺんの8千坪。フロントから客室まではカートに乗って案内される。屋外部分のテラスがとにかく広い。屋根の下にソファ、天然温泉のプライベート露天、その先にゴロリと横になれる竹編み状のチェアが2つ。見渡す限りの海だ。大小の島々が浮かんでいる。それらを橋が繋いでいる。波紋を描きながら舟が行き交っている。美しき天草の景観。
そのど真ん中に自分がいる。
「柴田が先頭だ。残り10m。大変だ、大変なことをしでかしそうだ!大変なことになりました!!」。国際的に無名だった日本人が、誰もが予期しなかった金メダルを獲得した瞬間、実況アナはそう叫んだ。
僕がこの雑誌を創刊した20年前、ホテル竜宮は本館だけの観光ホテルだった。ほどなく南蛮レトロの「さらさ館」、貸切露天&岩盤浴&足湯バーの「海ほたる」、全室スイートの「天使の梯子」が完成。そして天空の船――。松本氏にはその折々で驚かされてきたけれど、今度ばかりは「大変なことをしでかしてくれた」と思う。
ホテル?旅館?どちらの呼称もしっくりこない。天空の船は、天空の船だ。天草の海へ天空から出航せんとする夢の客船だ。
こんな宿泊施設は日本中、いや世界中を探したっておそらく二つとない。自分を信じ続けた天草の男が造り上げた、ここだけにしかないPLACEなのだ。